のろいのベルト
初代ドラクエ、つまりドラクエ1に、「のろいのベルト」ってありますよね。
読んで字のごとくというか、文字通り、そのまま、身に着けると呪われるわけです。
今、新しく、何でもいいんですがRPGゲームが発売されたとして、そこにこの「のろいのベルト」が出てきたとしたら、誰も「そうび」しないと思うんですね。少なくともファミコン世代の人々は。
しかし、当時、それこそまだ当時の少年少女にとっては、RPGというジャンルのゲームが何なのかが良く分かっていなかった時代、いや、RPG云々ではなく、とにかく「拾ったアイテムは意味のあるもの」という前提でゲームが進んでいきました。
役に立つ、立たないは別として、少なくとも先行して発売されたアクションRPGの初代ゼルダの伝説には、意味のない役に立たないアイテムはなかった。
ゼルダの場合は、迷宮にいるジジイを剣で刺すと、嫌がらせのビームを浴びせられるくらいであって、それはある意味当然の帰結というか、そりゃあまあ常識的にそうなっておかしくないなというものだと思いました。
ドラクエの場合は、宝箱の中に入ったアイテムとして、「のろいのベルト」が出てくるわけですが、さすがに当時の少年少女も字が読めないほど馬鹿ではないので、「怪しいな」くらいには思ったわけです。みんな。
でも、怪しいけれども、これを装備するとどうなるんだろうか?という疑問というか、好奇心もあったわけです。
ひょっとしたら、名前は「のろい」だけれども、実は防具?としての効果があるのかもしれない。
何かこのアイテムを装備していると、違う展開があるのかもしれない。
いや、むしろ、このアイテムを装備しなかったとしたら、友人のアイツやソイツに後れを取るかもしれない。
そのような心情がありました。
当時は今のように、人生が1,000年あったとしてもやりきれないほどたくさんのゲームが市場にあるわけではなく、1か月に出るゲームはせいぜい1本か2本。
ディスクシステムが世に出て、ようやっとゲームの本数が加速度的に増えてきた頃合いではあったものの、まだまだ当時の少年少女は「新しいゲーム」に飢えていた。
つまり、人気ゲームともなれば、周りのゲーム好きほぼ全員が同じゲームを同時にやっていると考えてよい時代でしたし、実際そうでした。
そのような立場にあると、明らかに怪しい「のろいのベルト」であっても、装備「しない」という選択はなかなかに勇気のいるものだったわけです。
当時の感覚がない人にとっては、「のろい」って書いてあるわけでしょ?装備するなんて馬鹿だねえ~って思う話であって、まったく共感は得られないと思うのですが、インターネットもwebもスマホもなく、バッテリーバックアップもなく、復活の呪文を書き留めていた時代。
復活の呪文を書き留めるなんてそんな無駄なことをせずに、写真に撮ればいいではないかと思っても、その写真はフィルムを現像して翌日にならないと写真屋から写真を得られない時代。
結局、多くの少年少女は「罠」だとわかっていながら、「のろいのベルト」を装備してしまったのでした。
まあ、ベルトを装備したからといって、物語の進行上特別な問題が生じるわけでもなく、ラダトームに呪いを解く専門のジジイがいるので、そいつに話しかければタダで呪いを解いてもらえて、ああよかったねという話。
物語の進行上の障害という意味であれば、「たいようのいし」のほうがよっぽど問題でした。
馬の世界にも、「のろいのベルト」いや、「のろいのうま」がいますよね。
まあ一番話題になりやすいのが、脚元が呪われているお馬さん。
それ以外にも、サイズ的に呪われている、厩舎が呪われている、厩舎が呪われていると同時にその厩舎にもれなくついてくる騎手も呪われているとか。
それなりの経験があれば、瞬間的に、これは呪われているなと判断できます。
なぜなら、皆通った道だから。
私ももちろんそうですが、のろいのベルトを好奇心から装備してしまったのと同様に、のろいのうまに好奇心から出資して痛い目に遭いました。
やっぱりこればっかりは、経験がないと避けようがないというか、実際は経験があっても避けようがない場合もありますけれども、もしかしたら、ひょっとしたら、この馬だけは、呪われてはいないのではないか?と考えてしまうもう一人の自分が常に存在するわけです。
まさに、初代ドラクエのときに、このベルトを装備しなかったことにより、友人のアイツやソイツに後れを取ったらどうすると考えたのと同様、この馬に出資しなかったら、他の会員さんに出資されちゃうという感覚。
昔々のように、1次募集終了後も確実に余る馬がいる時代ではなく、今は400口、500口の人気クラブは、先行予約、抽選、そして完売御礼という流れ。
のろいだろうがなんだろうが、とりあえず装備できるものは装備しておけというなんだかよくわからないプレッシャーを募集時に感じてしまう。
そうすると、結局、怪しいと思いながら、のろいのうまを装備してしまうことになるわけです。
ゲームと違うところは、「のろいのうま」ということは、文字上は明かされていないこと。
呪われているかどうかは、自分で判断しなければならない。
しかも、どう考えても呪われていると思っていても、実は呪に耐性があったのか何なのか、呪いを跳ね返すお馬さんがごくまれに存在するという事実が現実の厄介なところ。
一番の問題は、ドラクエでは呪いを解いてくれる爺さんがいるのですが、現実世界では、その呪いと、少なくともそののろいのお馬さんが引退するまで付き合うしかないということでしょうか。
わかっていても呪われてしまう。
馬と向き合っている以上、たまには呪われるもんだと割り切っておくのが一番精神衛生上は良いかもしれませんね。
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