続・ガチョウvs.白鳥
いや~、ガチョウと白鳥でこんなに揉めるとは思ってなかったですよ(笑)。
責任取ってというか、書いた以上は責任取って、原文全部読みました。
原文読んで、色々考えることがありました。
昨日、例の騎手は「無罪」としましたが、原文読んで、色々考えた結果、「不起訴」相当だと思いました(笑)。
まあ読み方、考えようによっては色々取れると思うんですが、政治家の裏金問題と一緒で、なんちゅうか何とでも取れるような言い方をしているんだと思います。
少なくともガチョウのところは、日本人が日本人の感覚で考える「反省」を示している内容ではないと私は思います。
原文は下記リンクになりますので、興味がある方は読んでみてください。
これを、私なりに翻訳した文章を載せたいと思います。
その上で、私なりの解説をしたいと思います。
ただ前提としてご理解いただきたいのは、結局は例の騎手ご本人に直接話をしない限り本当のところはわからないということです。
そもそも、このレーシングポストの記事も「記者が」、「インタビューを」、「切り抜きしたもの」だということです。
だから、「原文」であっても、それが本当のニュアンスなのかは、知り得ないということです。
ここからは英語の話でもあり、国語の話でもあり、読解力の部分だと思います。
各個人の感じ取り方にもよると思うので、これが絶対ではないと。
センター試験じゃなくってなんだっけ、共通テスト?まあそういうのの「解答」ではないってことだけはあらかじめご理解いただきたいです。
原文の最後のほうのパラグラフ、Morris starts back 以降の文章は今回の話の内容に関係ないので訳していません。
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日本での騎乗を終え、水曜日の夕方ケンプトンで2024年の国内初騎乗を行なうルーク・モリスは、その日本での経験について「簡単にはいかなかったが、素晴らしい経験だった」と語ってくれた。
凱旋門賞を制し、昨年イギリスで92勝を挙げたモリス騎手は、12月初旬に日本へ向かい、迎えるべき2024年に向けての調整に余念がなかった。
今年35歳のモリス騎手は、
「素晴らしい経験をさせてもらえて、日本中央競馬会には感謝してもしきれません。結局3日間の騎乗停止処分を受けてしまい、日本では土日しか開催がないというのもあって、2週間ほど早く戻ることになってしまったけどね。
基本的には、グループ1を含む日本の大レースレースすべてに騎乗できました。何頭かいい馬にも乗せてもらえましたよ。日本の冬のビッグレースである有馬記念では、香港ヴァーズの勝ち馬ウインマリリンにも乗りました。」
と語った。
実際モリスの騎乗数自体は非常に多かったが、その大半は人気薄だった。
モリス騎手は続ける、
「勝てたのは1頭だけだったけど、入着はたくさんありました。でも、かなり厳しい現実が待ち受けていて、自分の騎乗馬の平均オッズが54倍という状況で頑張らねばならない状況でした。自分の置かれた状況を考えると、このまま日本で騎乗を続けても人気薄の馬ばかりだろうし、思うような結果を得られないだろうということはすぐに悟りました。」
さらに、
「最初の土日は勝つこともできたし、入着はたくさんあって、これならいけそうだと思ったんだけど、その後は50倍程度の人気薄馬の騎乗が続くことになって、結局昨年のドイル騎手と同じ轍を踏んでしまったね。すべての大レースに騎乗させてもらえたのは確かだけど、そのほとんどは人気薄だったってのが現実さ。
でも、本当にいい経験になったし、また招待されて日本で騎乗できたらうれしいです。騎手っていうのは、日本を含めトップレベルの主催者のレースで切磋琢磨しない限り上を望むことできないから。日本で電話もインターネットもない状態で2週間半も拘束されるのは、最初はかなりきつかったけど、一旦それが普通になってしまえば、問題はなかったよ。」
と語った。
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どうでしょうか。
我ながら、モリス騎手、レーシングポストの記者、そして日本の読み手の感情を慮ってうまく訳せたなと思っています。
モリス騎手がどういう感じの方なのか知りませんが、若干フランクな印象にしてみました。
まず、サンスポの「訂正後」の訳である「長所を最大限に引き出すことができなかった」は、I soon realised that I couldn’t turn geese into swans. の訳としては、ほぼ間違いだと私は思います。
なぜなら、"I soon realised"っていう部分が完全に切り捨てられてしまっています。
これはおかしい。
この"I soon realised"には、幾分自虐的な意味も含まれていて、「オレ、わかちゃったんだよね。」っていう意味合いが含まれます。
「オレ、わかちゃったんだよね。長所を最大限に引き出すことができなかったってことを。」
って訳したら、0点だと思います。
だって、意味わかんないじゃないですか。
そもそもこの一文だけでも成り立っていない。
じゃあ何でサンスポがこんな訳に訂正したのかっていうと、辞書の説明を「そのまま」当てはめたからでしょう。
実はこの"turn geese into swans"っていう慣用句?と思われるものは、私が普段使っているような「有名な」辞書には載っておらず、私もどういう意味なのか知るのに割と苦労しました。
ということはですよ、ある意味洒落た表現を使って、英語学習者なら誰でも知っているような表現を使わずに、何か「イイタイコト」があったわけですよ。駿台風に言うと(笑)。
また前後の文脈にも注目しなければなりません。
例の"I soon realised that I couldn’t turn geese into swans. "の前後でオッズの話が出てくるじゃないですか。
ということはですよ、ここもオッズに関連した、前後の文脈と合った内容でないとおかしいですよ。
長所がどうとかなんて話は一切していません。
TOEICでも英検でも大学入試でもいいですが、ここの部分の訳に、訂正後の訳を当てたら明らかにおかしいし、意味が通じません。
前後関係を全く無視して、 I couldn’t turn geese into swans.を切り取って、この一文のみを訳すのであれば、訂正後の訳でも間違いではないでしょうが、このインタビュー記事全体を見渡しての訳としては明らかに間違っていると思います。意味が通じないですから。
さらに、この後ドイル騎手の話が出てくるわけですよね。
で、同じ轍を踏んだっていうような意味合いのことを言っているわけですから、「騎乗馬の質」を話の主題に置いているわけです。
じゃあ、サンスポの最初の訳である「かなり厳しい状況で、ガチョウを白鳥には変えられないとすぐに気づきました。」っていう訳はどうなのか。
入試だったらまあ部分点は入るんじゃないですかね。完全に間違いではありませんし。
前後の文脈から考えれば、ダメとは言えない。
ただ、これだとモリス騎手が「傲慢で上から目線の嫌な奴」になってしまいます。
ここで注目すべきなのは、turn geese into swansではなく、その前の "I couldn’t"だと思います。
これを学校で習った単なる「時制の一致」でcanではなくcouldなんだと捉えると、サンスポの最初の訳が出てきてしまいます。
だけど、この couldn’tは、実際は仮定法だと思うんですよね。
要するに、「できることならやりたい、頑張りたいと思うんだけど、結局はどうにもできないかっただろう」っていうことが言いたいんだと思います。
そこを考慮して、「自分の置かれた状況を考えると、このまま日本で騎乗を続けても、思うような結果を得られないだろうということはすぐに悟りました。」と 、私は考えてみました。
これだとモリス騎手の「不遜」、「傲慢」というイメージはないですよね。
実際、モリス騎手は、「I」、「couldn’t」と、主語はキッチリ「I」で語っています。
なので、あくまで「自分は」、「やろうと思っても無理だった」と言っているわけです。
ここも、主語を省略しがちな日本語文章では誤解が生じる大きな原因になったと思います。
もし、モリス騎手が、
"I soon realised that nobody could turn geese into swans. "
とか
"I soon realised that it was impossible to turn geese into swans. "
とか言っていたとしたら、最初のサンスポの訳でバッチリだと思います。
これだと、誰がやっても無理、無理に決まってるって感じになって、まさに我々競馬好き日本人が心に不満を抱えている「いい馬に乗ればだれでも勝てる。」っていう、あのススキノ暴力の方の発言が頭に思い浮かぶわけです。
だから最初のサンスポの訳だと、我々日本人には妙に不遜に思え、日本語として読むとなにかふつふつと怒りがわいてきたわけです。
しかし、実際はモリス騎手はそういうニュアンスでは語っておらず、ただ単に事実を述べて、それを述懐しただけってことです。
ところが、ところがです。
いや、確かに皮肉もこもっていると私は思います。
なぜって、ここで、わざわざ、「ガチョウと白鳥」を出してくるわけですから、隠喩として騎乗馬の質に不満があった、思っていたのと違ったという皮肉は込められていると思います。
そこで、最終的には、「自分の置かれた状況を考えると、このまま日本で騎乗を続けても人気薄の馬ばかりだろうし、思うような結果を得られないだろうということはすぐに悟りました。 」という訳にしてみました。
「人気薄の馬ばかり」という事実でもあり、自虐的でもあり、凱旋門賞勝ったオレにこんな仕打ちをするのかという不満も垣間見える形にしました。
本来ガチョウと白鳥の慣用句を出さずとも、いくらでも語ることができる内容ですからね。
ここでガチョウと白鳥を出すのは、そこに確実に「イイタイコト」があるということだと思います。
考えてもみてください。
もし今、武豊騎手だとか、川田騎手だとかが外国に遠征して、80回騎乗して1勝しかできなかったとしてですよ、人気薄の馬ばっかりだったとして、どんなインタビューになると思いますか?
確実に同情的な内容になるでしょう。
武豊TVだったら、武豊騎手が、あっさり「いやあ、人気薄の馬ばっかりでしたからねえ~」って言うでしょ、普通に。
そんでMCが「そうですよね~。」ってことになって、視聴者も、そうだよなあ~仕方ないよなあ~で納得でしょう。
このインタビュー自体がその程度のトーンというか、そんなに目くじら立てて注目すべきものでもないってことです。
実際のところ、モリス騎手がどのような気持ちで日本に来たのかもわからないですしね。
"hopefully I’ll be invited back."
と、invite という単語を使っているんですが、ジャパンカップじゃないので、招待レースではないんですよね。
実際申し込んで、JRAの許可が出なければ日本の短期免許を得られないのだから、inviteって言えばinviteなのかもしれないですが、なんちゅうかこのwordには「積極性」が感じられないですよね。
そのあたりの気持ちの問題も、日本でうまくいかなかった根底にあったのかもしれません。
ということで長くなりましたが、ガチョウvs.白鳥のタイトルマッチは終了です(笑)。
繰り返しますが、本当のところはモリス騎手に直接尋ねないとわかりようがないですから、あまりムキにならずに、だめだったね、仕方ないね、hopefully って言っても、途中で帰っちゃったんだからJRAは怒っていると思うし、もう二度と短期免許の許可は出ないと思うよ、ということでおしまいにしましょう。
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